クロード・モネ、オーギュスト・ルノワール、オディロン・ルドンが絵画において果たした役割を、クロード・ドビュッシーは音楽において果たした。想像力に富み、多彩な色彩と移ろいゆく雰囲気に満ちた彼の作品は、ロマン主義とモダニズムという二つの時代の境界に位置し、まさにその境界そのものを形作っている。19世紀から20世紀への転換期において、音楽を含む芸術は根本的な変革を経験し、オペラも例外ではなかった。ドビュッシーやイーゴリ・ストラヴィンスキーのような近代音楽の先駆者たちは、この「時代遅れの形式」にどのように向き合うべきか確信を持てず、むしろ距離を置く姿勢をとっていた。ドビュッシーは複数のオペラを書こうとしたが、完成したのはただ一作のみである。その唯一の完成作が、今日象徴的な存在となっている、ベルギーの象徴主義作家モーリス・メーテルリンクの戯曲『ペレアスとメリザンド』の翻案である。ドビュッシーの音楽は伝統的な壮大なオペラ的身振りや効果を排し、代わりに親密な音楽劇を選び、すべての重要な出来事が「行間」で起こる――暗示、沈黙、繊細な象徴的細部の中にある。
中世の伝説や童話のような雰囲気を持つ『ペレアスとメリザンド』は、二人の男性――年長の男と若い男――と謎めいた若い女性との関係に焦点を当てている。しかし筋書き以上に重要なのは、登場人物たちが互いを理解できず、共通の言語を見出せないことである。彼らは沈黙の中で愛し合いながらも、互いにとって異質な存在のままでいる。
ドビュッシーの音楽はこの世界を見事に際立たせる。伝統的なアリアを持たず、語りのように流れ、変化するオーケストラの色彩が夢幻的な静寂と宙吊りのような雰囲気を生み出す。この抑制こそが、このオペラに力を与えている。
ペレアスとメリザンド Pelleas et Melisande
作曲:クロード・ドビュッシー
台本:モーリス・メーテルリンク(フランス語)
初演:1902年4月30日/パリ・オペラ・コミック座
あらすじ
時と場所:中世ヨーロッパ アルモンド王国
第1幕
男寡でもう若くないアルモンド王国の王太子ゴローは、日の暮れた森の中で道に迷ううちに、長い髪の若く美しい女性が泣いているのを見つける。素性を尋ねるがメリザンドという名前、遠くから来たこと、冠をつけていてそれを水の中に落としたこと以外ははっきりしたことは判らずただ泣くのみである。ゴローはメリザンドを連れ帰る。数日後ゴローはメリザンドを妻にし、許しを得られたら塔の光で知らせるよう、もし願いが適わなければメリザンドを連れて王国を去ることを祖父の老王アルケルに手紙で告げ、目の衰えたアルケルに代わってジュヌヴィエーヴが代読する。やがて王国の城に来たメリザンドはジュヌヴィエーヴに連れられて暗い城の中を案内され、ゴローの弟で若き王子ペレアスと知り合う。城の塔の外から不吉な水兵の歌が聞こえる。
第2幕
打ち解けたペレアスとメリザンドの二人は城の庭にある「盲の泉」でじゃれて遊ぶ。「この泉はかつて盲人の目を開いた奇跡の泉と言われたが、老王アルケルが盲目同然となってからは訪れる人もほとんどいない」とペレアスは言う。メリザンドはゴローからもらった結婚指輪をもてあそぶ内にそれを泉の底へ落としてしまう。ペレアスは「落とした時に正午の鐘が鳴っていたのでもう遅くなるから帰ろう」とメリザンドを諭す。その晩ゴローは狩で落馬し負傷して担ぎ込まれる。メリザンドが指輪をしていないことに気づいたゴローは激怒するが、メリザンドは「海辺で落とした」と嘘をついてしまう。ゴローはメリザンドにペレアスを同伴させて海辺を探すことを命じる。夜の海辺でペレアスとメリザンドは乞食たちを見つけ、ペレアスは「この国に飢餓が迫っている」ことをメリザンドに説明する。
第3幕
夜に城の塔の上でメリザンドが「三人の盲いた王女」(初版では「私は日曜の正午の生まれ」、ドビュッシーはこちらを採用。フォーレとシベリウスは前者)を歌いながら髪を梳かしているとペレアスがやってくる。ペレアスとメリザンドはお互い手を伸ばし触れようとするが、メリザンドの手が届かない代わりに彼女の背丈よりも長い髪が塔を伝って落ちてくる。ペレアスはそれを掻き抱き狂喜する。しかしその場をゴローに見つかりたしなめられる。翌日ゴローはペレアスを深い洞窟に連れて行き、底なしの沼を見せる。外に出た後でゴローはペレアスにメリザンドの妊娠を告げ、刺激を与えぬようあまり彼女に近づかないようにと警告する。しかしまたその晩ゴローが先妻の子イニョルドを連れてメリザンドの寝室の中を肩車で見せると、イニョルドはペレアスが彼女と一緒にいる事をゴローに告げるのだった。
第4幕
ペレアスは明日遠くへ旅立つつもりで、その前に今晩泉で夜会いたいとメリザンドに告げる。老王アルケルがメリザンドと話しているとゴローがやってきてメリザンドをなじり、その髪を引きずり回して呪いの言葉をかける。アルケルが制止してゴローは部屋を出て行くが、メリザンドはもうゴローを愛していないことをアルケルに話す。夕方イニョルドが遊んでいると羊飼いが遠くへ去るのを見かける。夜になり、泉で待つペレアスの元にメリザンドが現れる。愛の告白をするペレアス、私も好きだと答えるメリザンド。木陰の闇で抱き合う二人、その束の間ゴローが現れ剣を抜く。ペレアスは剣を持っておらず抵抗できない。斬られる寸前までキスを求める二人を無言で襲うゴロー。ペレアスは死に、メリザンドも傷を負い逃げ惑う。
第5幕
召使によってメリザンドが「小鳥でも死なない小さな傷」によって瀕死の状態にあること、そのショックで小さな赤子を産み落としたことを噂し合う(ドビュッシーのオペラではこの部分を過剰な説明として削除している)。医者に看取られ死を待つのみで横たわるメリザンドに、ゴローは悔恨にくれつつも、ペレアスとの不義理の有無を問い続ける。しかしすでにメリザンドは黄泉の国へ旅立つ際であり、「許さなければないようなことは、思い浮かばない」などと受け答えは要領を得ない。別室へ下がったゴローをアルケルが慰め諭している最中、メリザンドは誰にも看取られず、一人静かに息を引き取る。泣き崩れるゴローにアルケルは「今度はあれが生きる番だ」と小さな赤子を見せ、静かに幕が下りる。